あなたには、トランスジェンダーの知人や友達がいますか?
あるいは、トランスジェンダーが家族や親族にいらっしゃいますか?
あなたは、自分をトランスジェンダーかもしれないと思ったことはありますか?
上記質問への答えは、多くの人が「ノー」ではないでしょうか。つまり、トランスジェンダーの方々と直接話をする機会が無く、知っているのはカミングアウトしてテレビ等で活躍している有名人だけ、という人が大半だと思います。私もそうです。だから、正直、わからないことだらけです。
私は、過去記事でJ・K・ローリングがトランスジェンダーに関する意見を発信して炎上作家と化している問題などを取り上げてきましたが、トランスジェンダーというのは何か人生で自分が決して関与することのない/することのできない、遠い世界のようなぼんやりした感じしかありませんでした。「トランスジェンダーの気持ちも、J・K・ローリングの気持ちも、どちらもピンと来ない。いやー、でもJ・K・ローリングのやってることって殺害予告とかされるほどひどいことなのかなあ・・・」くらいな、何か重大なことが起こっている感じがするんだけど、遠すぎてよく見えないし近づく方法もわかんないや、というていたらく。
それがぐんと近くに見え、リアルに感じられるようになったきっかけがこの一冊、スーザン・クークリン(Susan Kuklin)著の『Beyond Magenta(カラフルなぼくら)』です。
題名は『カラフルなぼくら』でいいのか
登場するトランスジェンダーのティーンたち
本書に登場するのは、6人のティーン。
これがまた「トランスジェンダー」というひとつのくくりで語っていいのかというくらい違っていて、もしかして意図的にそうした?というくらい「カラフル」。読んでいるこっちまで元気が出るようなポジティブな子もいれば、読むのをやめてしまいたいような辛い人生を送っている子もいる。その違いは、著者の伝えたいことのひとつなのかも。
トランスジェンダーと言ってもいろいろ。
その呼び方は、社会が彼らを理解するのに便利だから作られたラベルに過ぎない。
一人一人をよく知って欲しい。
社会の大多数を占めるバイナリの人たちだってそうでしょう?
「君は女だから○○だよね」「男だから○○なはずだ」、そう言われたくないでしょう?
そんなメッセージが感じられます。
残念なのが、6人のティーンのインタビューの中で、一番面白い二人が最初に来てしまっていることでしょうか。これは私だけかと思ったら、他の読者のレビューでもそこを指摘している人がいたので、やっぱりちょっと残念な構成になっているんだと思います。
冒頭のアジア系の子は、国際的な家庭で育っているため、性別変更の際にパスポートの問題が出て来たりすることなんかも語っていたり、語りに彼の人間的な頭の良さ、性格の良さが出ていて、何より楽しそうな人生を送っているのがいい。この第一章だけ読んでも、かなり当事者感覚が感じられる。自分は同性愛者だと思うところから始まり、そうではなくトランスジェンダーなのだ、と自認する流れやホルモン治療の体験など、後に続くティーンのインタビューで共通することの多い内容もほぼすべて入っています。バランスのいいインタビューになったから、冒頭に持って来たのかな。
そして、私のお気に入りは二番目の子! なんか映画みたいなんですよ。だって、男子校に在籍しながら、「私は女子」ですよ? 日本でこんなことやったら大ヒンシュクでしょうね。実際ものすごくもめて迷惑がられるんだけど、それでも自分を押し通し、その男子校初の女子の卒業生に。最後の方は、みんな「まあ、あいつだからしょうがない」で屈服している・・・なんか・・・受け入れられている・・・。なんというか、その、自分には絶対にできない「聞き分けの無さ」「自分の幸せを実現するのは自分だけ」、みたいな感覚がちょっとだけ羨ましいし、胸がすくんですよね。
アメリカの図書館で貸し出し禁止に
私は、ひねくれもので、全米図書館協会が発表する、図書館に排除要請が相次ぎ貸し出し禁止になった問題図書ランキングをチェックしてそこから何冊か読むのが毎年の恒例行事なのですが(読んじゃダメな本ほど読みたくなります)、この『Beyond Magenta(カラフルなぼくら)』、2014年の刊行以来、そのランキングによく登場します。2021年第10位、2019年第2位、2015年第4位。
(2021年の問題図書ランキングはこちらの過去記事をどうぞ↓)
「こんな本はBanしろ!」アメリカの図書館で苦情が多い本トップ10【2021年版】
2021年、アメリカで図書館に苦情が多く寄せられた本、トップ10冊を解説。LGBTQ関連の本が約半分を占めています。
このランキングがきっかけで本書を読んでみたわけですが、やっぱりこれにランクインする本は、面白いですね。つまり、アメリカのまじめな親御さんから文句が来る本(図書館に抗議するのはほとんどどがこうるさい親たちです)は、読者や司書さんにある程度の人気がある本であり、かつ、どこか人の感情を刺激する「何か」があるわけで、毒にも薬にもならない優良図書より面白いわけです。
この本で、一番大人がギャーギャー言ってるのは、第三章の「マライア」。かなり荒れた人生を生きている子で、なんとか助けてあげられないものかと私は胸を傷めながら読んだのですが、うるさい親御さんたちが読んでいるのはその中のたった数行のようで・・・。
「6歳の時、オーラル・〇○クスをした。気に入った。」
それって、その子がいかに異常な幼少期を送ったか、その後もそれがいかに尾を引いているのか、そうした生い立ちがいかに子供を壊すか、そういう意味で載ってるんだと思うんですよ。著者は、その子を言葉をそのまま載せただけで「そういった行為はいいことです」なんて一言も書いていないのに、抗議する人は「著者は幼児虐待、幼児性愛者を肯定している、宣伝している」、なんですよね。絶対、全部読んでいない。この本を借りて読むくらいの歳の子で、問題の箇所を読んで、それをしていいことだととるおバカちゃんはいないと思うんですけどね。
アメリカって、場所によってはものすごく保守的なので、この本が発する「トランスジェンダー全面肯定」「応援してるよ」的なスタンスそのものが許せない親御さんも多いようです。本や教育を変えれば、世の中からトランスジェンダーとかゲイを減らせると真剣に想っていらっしゃる一派が本当にいるわけで、もしそんな親御さんのもとにトランスジェンダーの子が生まれたら・・・・・・考えるだけでゾッとします。
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