『Atomic Habits(ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣)』アメリカで大ヒットを続ける自己改善ガイド本

『Atomic Habits』の原著表紙と日本語版表紙

 2018年10月刊行後、一年も経たずに100万部突破。発売後まもなく2年が経過しようという今も、ニューヨークタイムズ紙ベストセラーランキングの「アドバイス、ハウツー」のジャンルで第3位、2020年8月第二週の米国アマゾンのノンフィクション本ランキングで9位。40か国語以上の言語で世界中で出版されています。

 日本語版も出ていますが、またまたタイトルが謎。

『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』

 ・・・・・・。

 以下に原著の表紙と裏表紙をほぼ直訳してみたのですが、原著のどこに「ジェームズ・クリアー式」だの「複利」だの「1つの習慣」の文字が・・・??

『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』の原著の表紙と裏表紙を訳してみた

 「Atomic Habits」なんだよ、複数形なんだってば。「1つの習慣」じゃなくて、いっぱい良い習慣つけようね!っていう本なんだってば。

 それに・・・

「複利・・・? 複利ってなんだっけ、そんな話出てきたっけ、もしかして私、やっぱ英語ダメなせいで内容理解できていなかったのかも・・・こんなんでブログ記事書いちゃだめだよね・・・もう一回読み直そう・・・」

ってなって、二回読んじゃったじゃないかー!! 英語だと二回目でも時間かかるんだぞ。この時間を返してもらおうじゃないか出版社さんよ! 利子は複利で!!

 ほぼ毎回、日本語版のタイトルに文句つけていて、このブログが「邦題に文句をつけるブログ」と化している気がする。でも納得が行かない。元の本の内容や雰囲気とずれている日本語タイトルを見ると、豊田真由子元議員さんの「違うだろ!違うだろ!」っていう声が脳内で響くんです。なんかちょっとカタい小難しい言葉使って、エライおっさんが書いたビジネス書っぽい雰囲気を醸し出したいんでしょうかね。

 でも、この本を書いた人、全然おっさんじゃないです。

この本を書いた人

 著者ジェームズ・クリアー(James Clear)なる男は、現在30そこそこくらい。だから本書執筆時、発行時は20代の終わりくらいの「おにいさん」だったはず。

 何かものすごいことを成し遂げた有名人でも学者でもなく作家でもなく、一般人です。強いて言えば、一時期プロを目指して野球を頑張って大学野球でそれなりの実績を残した、というのがその辺の一般人と違うところでしょうか。一般人だけど、凡人ではないんですよね。「習慣で人生を良くする」ということを独学で心血注いで研究・実践しまくって自分なりに方法を考えた人です。

 自分のウェブサイトやメールマガジンでその情報を発信し続けて評判を呼び、書籍出版へ。現在は、執筆活動に加え、派生商品(手帳とか)や、講演活動、コーチング業で儲けまくっているニクいやつ。以下、本書から引用:

To be honest, there was nothing legendary or historic about my athletic career. I never ended up playing professionally.
(正直言って、私のアスリートとしてのキャリアには何ら伝説的なことも歴史上重要なところも無い。プロとしてプレーすることも結局はなかった。) 
However, looking back on those years, I believe I accomplished something just as rare: I fulfilled my potential.
(しかし、その何年かを振り返ってみて、私は自分がまれにみる何かを成し遂げたと思っている。自分の持てる能力を出し切ったということだ。)
And I believe the concepts in this book help you fulfill your potential as well.
(そして、私はこの本のコンセプトがあなたも同じようにする助けになると信じている。)

  本の中でも「普通の人」のまま、普通の人たちに「普通でいい、でもより良い普通になろう」とコーチしてくれるおにいさんという感じです。

この本のオリジナリティ

 ほとんど無いと思います。 

 習慣や「続ける」ということに関しては類著がたくさんありますよね。私はあんまり読んでいませんが。読者レビューでも、そのジャンルの有名な本であるチャールズ・デュヒッグ(Charles Duhigg)の『The Power of Habit習慣の力)』との類似が多くの人に指摘されていました。

 確かに、本の中で提案されていた習慣を身につけるための方法は、私でもどこかで見聞きしたようなもの、「そんなの当たり前じゃない」というものもすべてではありませんが、多かったです。

 それでも、この本はすごいと思うのです。売れるのがわかる。

 こういう本って結局読後いかに読者を変えるか、やる気にさせるか、良い方向に洗脳(あまり良くない言葉ですが)するかだと思うのです。それを言葉だけでやり遂げなくてはいけない。新興宗教の教祖様みたいに空中浮遊とか奇跡を起こして「すごい人だからこの人の言うことは聞こう」という気持ちにさせるやり方もできない。だって、最初から「普通の人です」って言っているわけですから。

 つまるところ、この本のすごいところは、

「どこでも誰でも実践できそうなことを提案していること」、
「内容のわかりやすさ」、
「説得力のある文章」、
「説明のうまさ」だと思います。

 他で聞いたことが無いオリジナルなやり方が書いてある、というのではなく世に溢れている習慣に関する情報のまとめ方と伝え方が、かなり優れているのではないでしょうか。

 読んでいてどの科学的な根拠もわかりやすく、自分の脳の中で何が起こっているのかが目に見えるようでした。「なるほど」と腑に落ちる気持ちよさを何度も味わえる本です。わかるでしょうか? 本が付箋と下線でいっぱいになります。

 オリジナルな内容があまり無いと前述した私ですが、目からうろこだったのは、本論に入る前、習慣の重要を説いている章の中で、目標重視の否定、アイデンティティと習慣の関係を説明しているところの二点です。

目標重視、ゴール設定を全否定

 「三年後になりたい自分をイメージしてそれを実現する目標を立て、そこまでの時間でやるべきことを割り算して・・・」

みたいなのって自己実現の王道じゃないですか。著者は四点に渡って、そういったよくある「目標を設定、達成する」という形の自己改善をわかりやすく否定しています。目からうろこでした。

  1. ひとつのレースがあるとして、勝者も敗者も同じゴールを目指したはず。だからゴール設定自体が勝者を勝利に導いたわけではない。
  2. ゴールを達成することは一時の変化でしかない。
  3. ゴール設定は幸せを制限してしまう。ゴール重視の精神でいると、幸せになるのは「ゴールを達成した未来の自分」だけ。しかも、「ゴールを達成したら幸せ、さもなくば幸せじゃない」という葛藤を生み出してしまう。
  4. ゴール重視は長期間の成長に合わない。ゴールさえ達成すればよいと考え、達成後は多くの人がゴールを目指す前の習慣に戻ってしまう。

 ゴール=目標は、進む方向を決めるためには大切だけど、重要なのはそこに至る「システム=習慣」に全力で取り組むこと。システムに注力しても、ゴールを重視しても実はたどりつく地点は同じかもしれない、しかしシステムを重視するとその後の人生が大きく違う、と著者は説きます。

アイデンティティを変えてしまおう

 何を成し遂げたいかではなく、どうなりたいか。どういう人物になりたいかをまず考え、その人物がするであろう小さな習慣を繰り返すことでアイデンティティ自体を変えていく、これもまた新しい考え方だと思いました。以下、引用です。

Imagine two people resisting a cigarette.
(タバコをやめようとしている二人の人物を想像してみてほしい。)

When offered a smoke, the first person says, "No thanks. I'm trying to quit."
It sounds like a reasonable response, but this person still believes they are a smoker who is trying to be something else.
(タバコをすすめられた時、最初の人物はこのように言った。
「ありがとう、でも結構です。やめようとしてるんで。」
ちゃんとした返事に聞こえるが、この人はまだ自分が喫煙者であり、喫煙者ではない誰かになろうとしている、と考えているのだ。)

They are hoping their behavior will change while carrying around the same beliefs.
(変わらぬ考えを持ち続けたまま、自分の行動は変わるだろうと望んでいる。)

The second person declines by saying, "No thanks. I'm not a smoker."
(二番目の人物はこう言ってタバコを断った。
「ありがとう、でも結構です。私は吸わないんです。」)

It's a small difference, but this statement signals a shift in identity.
(小さな違いだが、この言葉はアイデンティティの変化を示唆している。)

Smoking was part of their former life, not their current one. They no longer identify as someone who smokes.
(喫煙は過去の人生の一部であり、現在の人生ではない。自分のことをタバコを吸う人間だと自己認識していないということだ。)


上記の二点をダイエットに例えると

 「3か月で5キロ体重減らすぞ」というような目標を立てるのではなく、「私は自分が健康でいられる適正な体重を保つ人間である」と考えるようにする。そういう人にはどのような生活習慣があるだろうか。また、どのような生活習慣を避けるだろうか。

 そして、その習慣を少しずつ取り入れたり、避けるべきものは避ける。「まずは夜甘いものを食べないように、食事の後は食べ物が目につかない部屋で過ごそう」、とかそういう小さなこと、著者がよく言う「毎日を1%良くする」ことを続けることが後々大きな変化を生む。そのうち「こんな遅くに甘いものを食べる気がしない」になり、それだけでも「適正な体重を保つ人」というアイデンティティに変化しているということ。

 そんなんじゃ3か月で5キロ体重は減らないかもしれないけれど、その目標を達成した後モチベーションが下がって夜甘いものを食べたりする生活をするより、残るものがあるはず。これを積み重ねていくことで人生全体は必ず良い方向に向かうわけです。

 著者のようにうまくは説明できませんが、まあそんな感じです。

 どうやったら、習慣を積み重ねるのかは、実践編のところをどうぞ。

人生で一発大きな花火をあげたい人には向かないかも

 人生で一度はほかのみんなが経験しないようなすごい大きな成功体験をしたい、それさえできればあとはどうでもいい、というようなタイプの方がその夢をかなえるのには向いていない本かもしれません。

 どちらかというと、大多数のそういった成功体験をしないまま終わる人が人生により幸福感を感じるためのヒントがある本です。

 どんなクレイジーな毎日の中でも、ひとつでも小さくても続けている良い習慣があるということは、人に「自分の人生をコントロールできている」という感覚をわずかでも与えるもののように思います。

 特に毎日努力しなくても歯磨きができるように、そんな習慣がひとつずつ増えて行ったら確かにすごく望んだ人生に近づきそう。

 自己啓発というより、行動科学の本としても面白い良書なので皆さんも是非。

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